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2011年8月19日 (金)

仮面ライダーオーズ第46話「映司グリードとWバースとアンクの欲望」レビュー(1)

1

いつも書こうと想いながら果たせていなかったオーズのレビュー。物語が終幕を迎えるなか、矢も盾もたまらずやっと書き出す事が出来たのはこの46話に心が震えたから。

私が俗にニチアサと呼ばれる「スーパーヒーロータイム」を子供と観始めたのはシンケンジャーの中盤から。そしてその展開に衝撃を受け、あまつさえヒーロー番組で生涯初めての涙を流させられた私にとって、その脚本を書いた小林靖子と云う脚本家はとても気になるところ。

その小林靖子がホンを手掛けるこのオーズ。一筋縄ではいかないのだろうなと思ってはいましたが、どうにもペースが遅い。延々と続くコアメダル争奪戦とヤミーのセルメダル増殖。シンケンジャー同様、伏線が少しずつ微妙に散りばめられてはいるものの、低く響き続けるドラムの様になかなかそれらが物語のテンションに反映されてこない。

ところが残り2話となった今回の放送からその物語のもつテンションが一気に弾けた様にも感じるのです。子供番組の形を借りた人間ドラマとその慟哭が。

と云う訳で前フリ終わって本編のレビュー。

3 

決別した筈のクスクシェに独り舞い戻り、誰もいない薄暗闇のなかアイスキャンディを頬張るアンク。その脳裏にはヒトの「アンク」として過ごしてきた平穏な日々が浮かんでは消えていきます。人から思われ、他人を気にかけ、人に寄り添って生きていく時間。泉刑事に憑りついて以来の大好物だったアイスを齧りながら、「確かに…しばらくこれが物足りなかったな…」 と寂しそうに呟くその姿。物足りなかったのは果たしてアイスの味だけだったのかどうか…。

44話でグリード側についたアンクにこんな台詞があります。

「俺はグリードなんだよ!一番欲しいものは手に入れる!」

比奈 「欲しいものって…」

「お前達じゃない!」

ムキになって反論したアンクですが、誰もそんな事など聞いてませんでしたね。あれはアンクの心の中にあった葛藤が無意識に言わせた言葉。「一番欲しいもの」として意識されているイメージに極めて近い場所にあったもの。だからつい反応してしまった。

そして回想の過去のメズールもアンクに問いかけます。

『食べてみて、聞いたんでしょ?どうだった?』

「お前らグリードには分からない味だ。だから…」

自嘲するかのように独りつぶやくアンクの姿。ガラスに映る自分の姿に彼は何を見たか。

ちなみに、この問いかけをされたDr.真木の屋敷では各々がシンボルカラーでもある色布のソファーに座るなか、アンクは白い布を掛けた椅子を選び取って座っていました。すぐ目の前に赤い布が掛かったソファーがあるにも関わらず。クスクシェの屋根裏部屋では何の躊躇いもなく赤い布を敷いていたのにも関わらず。

そしてその問いかけは以下の様に続いていました。

「まるで自分は違うみたい」

「ああ、俺は人間が気に食わないが、グリードはもっと気に食わない」

人間ではないけれど、純粋なグリードでもない自分。その苛立ち。そして人と融合している事により自分の中で何かが変わりつつある苛立ち。それは以前にも示されていました。

「メダルメダルメダル!お前ら他にないのか!」

メダルに群がり拾い集めるグリード達に毒づくアンクの苛立ち。

「お前も同じだろ」

「ああ、そうだよ。最ッ悪だ。これ持ってとっとと消えろ!」

自身もグリードなのに、グリードという存在をとことん忌み嫌うのは何故か。自分自身でもこの苛立ちが何に起因する事なのかよく分からず、それがさらに苛立ちを強くさせていったのかもしれません。

独りアイスを齧りながらメダルケースを眺めるアンク。このケースは比奈がプレゼントしてくれたもの。「アンク」として初めて人から貰ったプレゼント。そして何かと決別するかの如く打ち捨てていったもの。でも捨てきれなかったもの。ここ、クスクシェでの暮らしもまた、彼にとって捨てきれぬものであったのかもしれません。そこに登場する比奈。

2

比奈 「アンク…もしかして戻ってきた…の…?」

「食いにきた…旨かった」

何かを壊してしまう事を畏れる様な、おずおずとした比奈の問いかけと、強がるように手に持ったアイスを示すアンク。でもここで、私がグッと来てしまったのは「旨かった」と云うアンクの台詞なのです。

旨かったんだよ。アンクにとって。他の何処でもないここで食べるアイスが。そしてそれは「ここ」で食べる事に意味があったんだよ。自分の中で何かの象徴になっているアイスの旨さが。

「他にも色々だ。だから…この身体よこせ…」

「えっ…」

「よこせ」

「駄目…あげられない…」

静かに言い放つアンクの声は、まるで最初から否定を求めていたかの様にも思えます。突き放して欲しい、そうすれば踏ん切りがつく。己の中に生まれている「何か」を振り切ってしまえる、そんな思いすら感じられる静かな声。そして「他にも色々だ」と言葉を濁したアンクの思い。口に出しては言えないけれど、本当はその「色々」を望んでいるのです。

比奈に続いてクスクシェに現れた知世子さんの、状況をよく把握していない能天気な「早く二人とも戻ってらっしゃいよ。屋根裏部屋もそのままにしてあるのよ」の言葉に返す、「どっちかは戻ってくるかもな」のシニカルな台詞。これは、これから決着を付けにいく、だからどっちかはもうここには「帰ってこれない」、その決別の覚悟を促す台詞。

4

だから、その意味が痛いほど分かる比奈はその場に泣き崩れるほかないのです。

アンクが寝返ったときに、映司を守りお兄ちゃんを取り返すと宣言した比奈。アンクに対してはもう決別の線を引いてあった筈なのに、でも心の何処かではまだアンクの事も大事な仲間と感じているのでしょう。だからこの哀しい嗚咽は止まらない。



一方、映司はガメルに突き落とされたまま、海へと流れ着いていました。グリード化したその左腕のまま、無くなった腰のベルトを探す映司の元に現れるアンクの姿。静かに「どっちかは戻ってこれない」かもしれない闘いが始まろうとしています。

5 

映司 「これ以上誰も完全復活も暴走もさせないように…信吾さんをメダルの器になんかさせない!」

「思ったとおりお前の言いそうなことだ。だから俺も決めてきた。俺が必要な物のために、邪魔なお前を潰す!」

映司を潰すと宣言するアンク。だが、彼はその前に 「だから俺も決めてきた」 と言いました。決めてきた、つまり直前まで迷っていたのだとアンクはここで吐露しているのです。迷っていたのだと。決めかねていたのだと。本当にそれでいいのか、それを望んでいるのか、自分でも判断出来かねていたのだと思います。だから、半ばヤケクソの様に無理をしてでもそれを振り切る。

または無意識に映司をかばう為の行為だったのかもしれません。もう「オーズ」としてこんな苦しみに関わるな。何故お前はグリード化してまで、自ら苦しみの中に飛び込もうとするんだと。それは考え過ぎでしょうか。

8 

映司 「お前の欲しいものってなんだ!人間か?」

「もっと単純だ。世界を確かに味わえるもの!『命』だっ!」

欲望が形になり動いているだけのメダルの塊、それがグリード。生命の無いグリードであるアンクが望んだものは「命」。しかし、人に寄り添い、人と交わり、人として生きてきた時間がアンクを変えていきます。グリードでありたくないと思えるまでに。人として生きたいと思えるほどに。

「グリードは生きてさえいない!ただのモノだ。そのくせ…欲望だけは人間以上ときてる。食っても見ても触っても、絶対満たされない欲望!」

6 

擬似生命体グリード。彼等は意思を持ち、言葉を解し、己の欲望に身を灼かれる存在ですが、決してその欲望を充足させる事が出来ない「イキモノ」です。まるで最初から「充足」を感じる為の器官が付いていないかのように。その欲望は穴の空いたバケツの様なものなのでしょうか。それとも、幾ら手に入れてもそれを「味わう」事が出来ないが故に、ただひたすら執着し、かき集めるしかない哀れな存在なのでしょうか。

この「充足」を真にグリードが感じる日は、あらかじめ失われた最初のメダル、10枚のメダルから1枚を抜いたときに生じた欠損を補充したいと云う欲望が補填された日なのかもしれません。それは即ち、元の10枚のメダルに戻ると云う事ではあるのですが。

「お前は何も分かってない。グリードなのに何も欲しくないなんて顔するな!」

映司 「お前は欲しがりすぎなんだよ!命が欲しいなら人の命も大切にしろォッ!」

「知るかっ!お前もなんか欲しがってみろ…そうすれば分かる!お前はなんか欲しいと思ったことあんのかぁっ!あんのか映司ィっ!

7

映司 「俺は…俺は欲しかった。欲しかった筈なのに諦めて蓋して、目の前の事だけを…どんなに遠くても届く俺の腕、力!もっともっと…。もう叶ってた…お前から貰ってたんだ。一度も言ってなかった…アンク、ありがとう…」

9 

この時のアンクの表情、戸惑い、ひょっとしたら意識していない喜び。アンクが本当は何を望んでいるのか、それは決して「命」そのものではない事に自ら気付くシーンだったのかもしれません。

アンクは決して人間になる事が望みだったのではありません。ヒトを嫌い、グリードを嫌っていたアンク。でも映司や比奈ちゃん、伊達さんや後藤さん達に混じって過ごした、何でもない時間。そして形は歪つながらも育んできた互いの信頼感。繋がり。他者に必要とされる事実。それがアンクの欲しかったものなのではないでしょうか。

もしそうであるならば、彼等の願い・欲望は出逢った段階で既に充足されていたのです。

ただ、互いに追い込まれるまでその事に気付かないフリをしていたのかもしれません。互いに歪つな器であった二人。その二人が補完しあう事でこの欲望は成就していたのです。

※思ったよりも長くなっちゃってるので次へ続きます。すいません。

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コメント

コメントありがとうございます。
今現在、47話のレビューをしこしこと夜中に書いております。
ちょっと身内が入院したりして色々と気忙しい状態ではあるのですが、何とか最終話までにはアップさせたいなと。

元々遅筆なうえに長文派なので収拾が付かなくなってますが、自分の心が受けたものを何とかうまく言葉に変えてひねり出そうと奮闘してる最中です。
お褒め戴いて本当に嬉しかったです。またそんな感じで人様に読んで貰えるような記事が書けたらいいなと思います。

フォーゼ、どんなんでしょうねぇ(笑)まだ今の処は海のモノとも山のモノとも付かない感じで…(あ、宇宙のモノか)

投稿: イシュト | 2011年8月24日 (水) 01:34

はじめまして。
まず最初に、素晴らしいレビューだと思いました。
記事に書かれてある通りオーズは中盤の中だるみが酷かった印象が強いですが、それすらもアンクの回想を感慨深いものにするための土台だったのか…とついつい過大評価してしまうほど、今回のクスクシエのシーンは悲しくなりました。「終わりよければすべてよし」とはこのことでしょうか。
私はただそのシーンに「アンク悲しいなぁ…」と漠然とした感想を抱いていたのですが、このレビューを見たことでもっと深く心が動きました。
「お前達じゃない」「俺も今決めてきた」等の台詞の受け取り方、そして真木屋敷での白い布。純粋に着眼点が凄いと思いました。
これほど立派なレビューを書くのは時間がかかるかと思いますが、もしまた機会があれば是非オーズ最終回やフォーゼのレビューもして頂きたいな、とひっそり楽しみにしています。

投稿: 向日葵 | 2011年8月22日 (月) 00:10

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